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広島高等裁判所松江支部 昭和26年(ネ)93号 判決 1953年1月30日

控訴人 原告 周藤郁三

訴訟代理人 錦織幸蔵

被控訴人 被告 小山威義

訴訟代理人 草光義質

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は控訴の趣旨として原判決を取消す。別紙目録記載の物件(原判決物件目録記載を引用する)は控訴人の所有に属することを確認する。被控訴人は控訴人に対し右物件を引渡せ。右物件を引渡すことができぬときは被控訴人は控訴人に対し金三十七万五千円を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は当審で、控訴代理人において甲第九、一〇号証を提出し、証人北川雅夫、売豆紀武雄、実重俊夫及び控訴人周藤郁三本人の尋問を求め、検証の結果を援用し、乙第五号証の一は原本の存在及び成立を認め、乙第五号証の二は不知但し調書の部分は原本の存在を認むと述べ、被控訴代理人において乙第五号証の一、二を提出し、証人伊藤恕遂、高石栄之助、宇山栄之助及び被控訴人小山威義本人の尋問を求め、甲第九、一〇号証はその成立を認めた外原判決に記載した通りであるからここにこれを引用する。

理由

成立に争のない甲第一号証の一、二原審証人北川雅夫の証言により真正に成立したと認める甲第三号証の一、二原審及び当審証人北川雅夫の各証言、原審証人板垣重臣の証言(一部)、原審(第一回)及び当審における控訴人本人訊問の各結果を綜合すれば別紙目録記載の物件(原判決物件目録記載を引用する)がもと安達元益の所有であつたこと、昭和二五年七月実重俊夫が松江地方裁判所執行吏北川雅夫に対し松江地方法務局所属公証人篠田嘉一郎作成第六五二五号第六四八二号各公正証書の執行力ある正本に基き安達元益に対する強制執行を委任したこと、同月一八日北川執行吏が右強制執行の目的で前記実重の代理人たる控訴人と共に島根県能義郡広瀬町の安達方に赴き安達が同町出雲工作所内に占有している右物件に対し差押手続をなしたこと、そして北川執行吏は「松江地方裁判所執行吏差押物件」と記し職印を押した縦六センチメートル横三、四センチメートルの白い小紙片(いわゆる公示書)を同工作所内に山積された本件木材に四枚を貼つて差押の表示を施した上右物件を債務者たる安達の保管に任したこと、並に控訴人は同年八月八日本件物件を競落したことを認めることができる。被控訴人の全立証によるも右認定を左右するを得ない。

ところで被控訴人は右差押が無効である旨抗弁するのでこの点について考えてみるに民事訴訟法第五六六条第二項によれば執行吏が債務者に差押物件の保管をまかせる場合は封印その他の方法でその差押を明白にしたときに限つて差押の効力を生ずることになつているがかように差押を明白にするのはただ差押の事実を確保するだけでなく一般取引の安全を保護し第三者が不測の損害を被らないことを目的としたものであることは明かである。従てその差押の表示は何人にも見易い箇所に又何人がみてもその物が差押物であることを知るに足る方法でなされなければその差押は要件を欠き無効であると言わねばならぬ。

然るに原審証人上野アキコ、亀田勇市の各証言、原審及び当審証人北川雅夫、宇山栄之助、高石栄之助の各証言、当審証人伊藤恕遂の証言、原審及び当審における被控訴人本人訊問の結果を綜合すれば前示差押のなされた当日本件物件の置いてあつた出雲工作所では亀田勇市、高石栄之助、宇山栄之助等の大工七、八名が本件物件の加工に従事していたこと、債務者安達元益は債権者代理人たる控訴人及び執行吏北川雅夫に対し世間態が悪いから本件物件の差押は大工その他に気付かれないように内密に施行するよう懇願したので控訴人及び北川執行吏もこれを了承し昼休み時に何人にも気付かれないように本件物件の点検及び差押手続をなし広い出雲工作所の建物の諸所に置かれていた七百本以上の本件木材の数多の山に対し僅かに前示公示書たる小紙片四枚を人目につかぬように貼つた上本件物件を安達の保管に任したことを認めることができる。右のように山積された木材に対し差押を明白にするには少くともその木材の山に対し繩張その他の方法を施してそれが一括されていることを示した上その諸所に前示の如き公示書を貼るか又は相当の大きさの立札をして第三者において一見してその木材の山が一括して差押の対象となつていることを認識し得るようにすることを要し情を知らぬ第三者において差押物件であることを知り得ぬ程度の方法を施してもそれは差押の要件を充足したものとは言い得ないであろう。現に前顕各証言等によれば当日出雲工作所で働いていた前示大工等並に右工作所の構内に居住し当日は終日在宅していた上野アキコ等は全く本件物件の差押並に右公示書の存在に気付かなかつたのみならず右差押の翌日たる七月一九日被控訴人が安達元益及び亀田勇市その他数名の大工と共に本件木材を一々点検しこれに被控訴人商店の商号スタンプを押した際にも被控訴人及び右大工等は右公示書の存在に気付かなかつたことを認めることができるから北川執行吏が本件物件の差押に当り施した前示差押の表示は本件物件の差押の事実を明白にするための公示方法としては全く不十分であつたものと言うべく本件物件の差押は民事訴訟法第五六六条第二項に違反し当然無効であると解するを相当とする。されば右差押が有効なることを前提としてなされた本件物件の競売手続は当然無効であつて右競売により控訴人は本件物件の所有権を取得するわけではない。そうすると控訴人がその主張の競売手続により本件物件の所有権を取得したことを前提とする控訴人の本件請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れず、これと同旨に出た原判決は相当であるから民事訴訟法第三八四条第一項を適用し本件控訴を棄却することとし控訴費用の負担について同法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 石見勝四)

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